震える牛 (小説 相場英雄)

                 
震える牛 (小学館文庫) 震える牛 (小学館文庫)
警視庁捜査一課継続捜査班に勤務する田川信一は、発生から二年が経ち未解決となっている「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。初動捜査では、その手口から犯人を「金目当ての不良外国人」に絞り込んでいた。 田川は事件現場周辺の目撃証言を徹底的に洗い直し、犯人が逃走する際ベンツに乗車したことを掴む。ベンツに乗れるような人間が、金ほしさにチェーンの居酒屋を襲うだろうか。居酒屋で偶然同時に殺害されたかに見える二人の被害者、仙台在住の獣医師と東京・大久保在住の産廃業者。
田川は二人の繋がりを探るうち大手ショッピングセンターの地方進出、それに伴う地元商店街の苦境など、日本の構造変化と食の安全が事件に大きく関連していることに気付く。

震える牛というタイトルで勘のいい人は気づくかもしれないが、BSE問題を絡めた社会派小説。

ただ、BSEはエッセンス的な要素で、主題はショッピングモールの台頭による商店街の衰退と街の破壊を結びつけたものから組織と個人の関係にまで掘り下げられており、都内の居酒屋で起きた外国人によるものとみられる強盗殺人が実は大企業を守るためのエゴによるもので、そのエゴが安いものを追い求める消費者の利害と巧妙に一致し、マスコミや警察と癒着した権力によって暗黙知的に正義は闇に葬り去られそうになるのだが、主人公役の窓際刑事や女性ジャーナリスト達がそれに立ち向かうという構図の物語になっている。

しかし、対立構造が極端で、あまりに大企業を敵視するあまり、作品としては環境主義的でノスタルジーに偏りすぎているきらいがる。BSEや放射線に関する騒動で科学的に問題ない点にまで不安から騒ぐのを止められないヒステリックな消費者とそれを煽るマスコミなどを批判しつつも、本作自体が食品添加物を使うことで安価でそこそこうまい食肉加工品を消費者に提供することに成功している点に対して、まるでテレビショッピングの演出のように如何にもわざとらしく添加物がもたらす健康被害や加工現場の衛生面や企業倫理について、おぞましい事実を知ったかのように登場人物にショックを与えてみせて、心の悲鳴を上げさせるなど、読んでいてちょっと苦笑してしまう部分もあった。

とはいえ、あえて社会に問題を投げかけるためにこのような作りにしているのかもしれないし、それぐらい、この種の問題は大企業とは距離をおいて、個人という存在に寄り添わないといけないということなのだろう。作中の女性ジャーナリストが私怨であることを自覚しつつも、特定の大企業を敵討ちと称して糾弾するために取材や執筆の活動を続けるが、本作もまさに失われた何かの敵を討つための私怨がこめられているようであった。
                 

コメント

        

        
> > 震える牛 (小説 相場英雄)