慟哭 (小説 貫井徳郎)

                 
慟哭 (創元推理文庫) 慟哭 (創元推理文庫)
連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の批判をうけて懊悩する。異例の昇進をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心をよせる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ!幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを、鮮やかな構成と筆力で描破した本格長編。

連続幼女誘拐事件を捜査する捜査一課長の佐伯と、新興宗教にはまっていく異常者としての「彼」、双方の視点を交互に描きながら、「二人」が抱える懊悩に深く迫った本格長編で、叙述トリックを用いながらも、それに頼りすぎず、警察内部の軋轢や不協和音、そして新興宗教の実態がリアルに描写された背景とそこに配置された人物の動かし方に不自然さが全くないことが世界観を確かなものにしている。

読んでいて考えさせられたことは、人間の一つの行動の裏には様々な思いや考えが込められており、目には見えない複雑な背景が存在しているということだろうか。かつて新興宗教にはまりようもない人間であったとしても、ふとしたきっかけで胸に穴が開いたように隙が出来れば、藁にもすがる思いであっけなく宗教にのめり込むこともあるし、親の子どもへの愛情や執着は他人の子どもを殺すほどの狂気に走らせるほど強いというメッセージ性が読者に突き刺さる。

そして、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するというハインリッヒの法則よろしく、一つの大事件の背後には子を失った親の悲しみや怒りといった感情だけではなく、親という一人の人間の背景として仕事のストレスや家庭の悩み、そして親自身の生い立ちに纏わる複雑な家庭事情やコンプレックスなど様々な要素で構成されており、不倫をしていたことや家庭を顧みないことで娘に嫌われていたことへの悔恨や懺悔を含め、容易に単純視することができない。そうさせないところが本作の魅力であり、人間の魅力でもあろう。
                 

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